たまにはガンダム漫画を普通にレビューしたいと思う。
◆曽野 由大「アッガイ博士」(カドカワコミックス・エース)全2巻UC0086年6月(ってどう見ても間違ってるがそう書いてある)、サイド3で行われた水陸両用MSの評価試験から物語は始まる。MIP社の若き技術者ソースケ・カトーは、ジオニック社の設計主任
ヨハン・スウィネンと出会う。
スウィネンの手掛けた試作機の名は「アッガイ」。そのコンセプトは
「霊長類最強」。
ギャグ漫画である。
作者の曽野由大はガンダムエースで一風変わったガンダム漫画を描いてきた人であるが、特にアッガイ関連だけ特別扱いなのか、異常な強さのアッガイが活躍する漫画「アッガイ北米横断2250マイル」と、現代日本でアッガイの姿になって戦う変な男を描いた「アイアンアッガイ」という二作品を発表している。
そしてこの「アッガイ博士」だ。
本作は一連の曽野作品と比べても完全にギャグに振っており、まともに外伝作品として論じるのはムダである。
ここで語られるものは断じて公式設定に準じたものではない。
ただし最終的に「アッガイ北米横断2250マイル」と話がつながっており、作者の他作品もだいたいつながっているため、やっぱりつながっていることになる。困った。
いや連邦愚連隊もKATANAも非公式みたいなもんだからどうでもいいか!
内容としてはスウィネンとソースケを中心に、ジオニックの子会社「スウィネン社」でアッガイを開発していく1巻と、水陸両用MSのトーナメント戦が行われる2巻に分かれている。1巻はとにかく異常な動きをするアッガイに始まり、ツィマットとゆるキャラ対決をしたり、アカハナ曹長が出てきたり、ベアッガイみたいな格好のクマが出てきたりして、だいたいアッガイとスウィネンの異常さを描写していく。言動の端々からにじみ出るスウィネンの邪悪さが物語を彩る。
2巻ではソースケの兄であり、スウィネンの同級生でもあるツィマット社の設計主任のゴリラみたいな男コースケが登場、霊長類最強を標榜するアッガイに対し、ゴリラみたいな水陸両用MS「ジュリック」を送り出してくる。
このジュリックの俊敏かつパワフルなアクションは本作の見どころだ。これまで他媒体でほとんど描写されてこなかったあのジュリックの高性能を前に
「ゴリラみたいなMS」と一蹴するスウィネンの温度差。
そして突然御前試合と称するバトル展開に突入、ジオン水陸両用MSが勢ぞろいし、ザクマリンタイプやゾゴック、水中実験機まで登場する。アカハナに続いてゾックのボラスキニフ曹長も登場だ。見たことのない水陸両用MS同士の対決をギャグを交じえつつ真剣に描写している。
でジュリックを倒してアッガイが採用されたところで漫画が終わった。
0話の時点でスウィネンとソースケはジャブローに潜入することが語られているのに、そこまでたどり着かないまま終わった。どうも打ち切りくさい。
採用された量産機のアッガイはデチューンされ、フルスペックの試作機は北米横断に使われたことを示唆して終わっている。
◆スウィネン社問題書籍「アナハイム・ジャーナル」で設定されたアッガイの開発メーカーである「スウィネン」。ことの経緯はよく知られていると思うが、参考になるブログがあるのでリンクしておく。
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スウィネン社(設定作者のamigo氏のコメントが掲載されている)
スウィネン社は個人サイト「生まれてきてすいません」で創作された設定であり、それがサイト作者本人に無断で「アナハイム・ジャーナル」に掲載されたものである。
ただし、わからないのはこれが本当に個人サイトに釣られて書かれたものだったのか、それとも
わかってわざと載せたものであるかということだ。設定の整合性の問題ではない。基本的には釣られたと考えている人が多いが、どうなんだろう。「生まれてきてすいません」が2003年当時そこまで知名度が高くて、商業のライターが騙されるほどであったか、僕は当時のガンダム周辺をほとんど知らないので何とも言えない。
スウィネン社の元設定はこちら。
「生まれてきてすいません」の用語集アッガイがスウィネン製という設定の整合性に問題があるとは思わない。しかし無断でそれを載せてしまうのは、いろいろな問題があった。釣られる程度の公式だということであるし、釣られたんじゃなければ個人でやってる設定を勝手にパクったクソ本ということになる。
で、アナハイム・ジャーナルという本はそういう部分が問題視されたのかどうか知らないが(されたのだと僕は思っている)、「公式設定集」というタイトルにも関わらず公式なのかどうかよくわかんない本として名前が残った。
前に書いた08小隊核爆発の話もそうだし、この本の内容は公式かどうか以前にそれを書いちゃうのはどうなのよという部分だけが読んでない人に口伝され、他の面白い設定は後の文献にまるで受け継がれなかった。
スウィネン社も定着せず、一部のアレな方面以外では完全になかったことにされた。
だが、この本でデザインされたツィマットやスウィネンなど、各メーカーのロゴマークだけ公式な設定として残っていたりしたのはあまり知られていない。どうも
ただの素材として混入してしまったようで、それがスウィネンだと意識して使われているかどうかわからないのだが、ビルドファイターズトライの4話もスウィネンのロゴが映ってしまってる場面がある。
映像化された!完全に公式だ!
◆ヨハン・スウィネンのスウィネン社スウィネン社の存在はアナハイム・ジャーナル以降は長年封じられ、アッガイはジオニックということでお茶を濁していたが、完全になかったことにはできなかった。
何しろジャーナルを読んでない人も公式のアレな例として事情だけは知ってるので、むしろ知名度は上がっていったと言ってもいいだろう。
アナハイム・ジャーナルには、スウィネン社はアッガイを開発したMSメーカーということしか書かれていない。「公式」に元サイトの設定がどこまで生きているかは定かでなかった。
アッガイ博士では、スウィネン社は元サイトの設定が一部採用されており、「土木作業用のモビルワーカーの開発」という文言は出てくるのだが、基本的には印象が異なる。「低コスト」「手堅い設計」という元設定と比較し「ベンチャー」「ザクの飛行試験型」
「霊長類最強」など、どう見ても元設定に合わせる気がない。むしろ曽野漫画の異常なアッガイに合わせた異常な会社として描写されている。ただアナハイム・ジャーナルで見えていた部分に抵触していないというだけである。
ちなみにアッガイがジオニックという設定に対してはジオニックの子会社ということにして辻褄を合わせているが、これは一部のアレな本ですでにやられていた解釈である。
この「アッガイ博士」も、さすがにジャーナルからの経緯は知っていたと思われるが、元サイトの許可を取ってスウィネンを出したわけではないようだ。許可を取ってやるのが筋だと思う。
いやひょっとして許可は取ってたつもりだったのが、取ってないことに後で気づいて、話をコンパクトに終わらせちゃったりしてない?とか思ったりもするが、真相が明らかになることはないだろう。
アレな経緯ながらスウィネン社という設定は確実に「公式」に存在したものである。だが「公式」はその経緯をはっきりさせることなく、謝罪も釈明も開き直りもなしに、ただ黙殺してきただけであった。
まあ一部のアレな本に載ってたのは確かなんであるが、あの手のやつはただマイナー設定を書きたくってるだけだからな…
「アッガイ博士」もアレな本であることに違いはないのだが、この漫画でスウィネンを出した目的は、アッガイを語るうえで必ず問題になる「スウィネン」の存在から目を背けないこと、ではなかろうか。
だからちゃんとことの経緯を明らかにしてほしかったし、中途半端なところで終わってほしくなかったところである。
総評:水陸両用MS(特にジュリックとアッガイ)が暴れるギャグ漫画を読みたい方におすすめ。